雄国沼周辺の植生

①ミズナラ林および低木・草原の由来

雄国沼湿原およびその周辺は標高1100~1400mで植物の垂直分布ではブナ帯に属しており、沼の東側猫魔ヶ岳の斜面には天然のブナ林が発達している。一方、沼の北側一帯はミズナラが混じる低木林や芝や笹が広がる草原で点々と低木が広がる乾燥疎開地となっている。これは土地所有者による過度の利用のために草原・ササ原・低木となっているところが多い。森林の伐採が繰り返され、一部は長く採草地として利用されたため、現在でもミズナラ林となっている。

②雄国沼周辺で観察できる主な植生

(a)ブナ林

雄国沼の東側猫魔ヶ岳の西斜面には自然のブナ林が広がっている。雄国沼周辺では唯一伐採を免れた自然林で、人手が入らない極相(※1)群落のブナ林の組成を示すものとして、特に重要な林である。

亜高木層(ブナ、ミネカエデなど) / 低木層(チシマザサ、アカミノイヌツゲなど) / 草本層(ゴゼンタチバナ、マイヅルソウなど)

ブナ林

(b)ミズナラ林

古城ケ峰から金沢峠、雄国山周辺に発達するミズナラ林は、気候的極相のブナ林伐採跡地に発達した二次林である。用材確保や薪炭(しんたん)材確保のため広くブナ林が伐採され現在の状態となっている。

亜高木層(ミズナラ、ハウチワカエデなど) / 低木層(チシマザサ、ベニウツギなど) / 草本層(オクノカンスゲ、チゴユリ)

ミズナラ林

(c)草原・低木層

雄国山やそれに続く沼北方のカルデラ壁をなす山の頂上付近には、草原とまばらに低木林が広がっている。やや乾燥した疎開地にはシバやススキが生育し、草刈り場や放牧地として長年利用してきた為に草原が維持されていると考えられる。

低木層(ウラジロヨウラク、レンゲツツジなど) / 草本層(ヨツバヒヨドリ、ノアザミなど)

ブナ林の伐採後も、人手が絶えず入り続けることで、退行遷移(せんい)(※2)が生じていると考えられる[吉岡(1959)]。つまり、ブナ林→ミズナラ林→ササ草原・低木→ススキ・シバ草原と遷移が逆行した結果であると考察している。

※1 極相・・・生物群集のうつりかわる最終段階で見られる平衡な状態
※2 遷移・・・うつりかわること。類義語として「変遷」「推移」

雄国沼湿原の植物群落

①雄国沼湿原の成因と区分

湿原は雄国沼を取り囲む旧火口壁の下部の平坦地または緩傾斜地に成立したものである。沼の南側に特に広く発達し、水辺から500~600mの幅がある。外輪山の下部はその上部からの流水や湧水によって潤されている。夏季気温20~25℃のとき、流水水温は13~18℃、湧水水温は8℃でpH5.0~5.2である。この低温・酸性・貧養の流水又は湧水が、下部の排水の悪い平坦地または緩傾斜地に停滞し湿原を作ったと考えられる。ボーリング調査では泥炭層の下部が湖底堆積物でなく直接砂土または埴土からできていることや、湿原の最高所は雄国沼の水面から9mも高いことから、雄国沼湿原は湖水から湿原になったものではなく、排水の悪い傾斜地から湿原になった谷湿原であることが判る。

②湿原を構成する植物群落の組成

(a)カワズスゲ‐ミズゴケ湿原(谷湿原=中間湿原)

湿原の縁にある外輪山に接する斜面の部分に位置し、上部の樹林帯から来る低温・酸性の浸透水によって涵養(じよう)され、極めて湿潤である。この群落は高層湿原の再生複合体(※3)に似ているが、高層湿原と違い、カワズスゲ、ナガボノシロワレモコウ、ヒメシダ、イヌスギナなどが現われる。

※3 再生複合体・・・高層湿原へ発達していく過程で、ミズゴケによって凹凸地形ができるが、初期の段階では、ミズゴケが大型で固い地下茎の隆起した株を中心にして生育し、凸地形が形成され、地下茎が分枝していって凹地形から凸地形にと移り変わる。 この作用が繰り返されて、次第に高層湿原が発達していく場所

(b)ヌマガヤ湿原(谷湿原=中間湿原)

外輪山の斜面下部に発達し、上部の樹林帯からの浸透水の影響も少なく、湿原の水分はそれほど過剰ではない。土壌水分が比較的少なく、排水の良い傾斜地にはヌマガヤを主としニッコウキスゲなど他の植物の混じるヌマガヤ湿原が発達する。

ニッコウキスゲ

(c)ヌマガヤ湿原(高層湿原周辺複合体)

中間湿原のヌマガヤ‐ニッコウキスゲ群落に近いが、ホソミズゴケ、ホロムイイチゴ、ツルコケモモ、ミカズギクサなど高層湿原の再生複合体に見られる植物が多い。

(d)ミズゴケ湿原(高層湿原再生複合体)

雄国沼湿原の中央部(南西端から380~500m)には高層湿原の頂部の再生複合体が発達している。小丘と小凹地がモザイク状に分布し特徴ある相観を示している。小丘と小凹地は接しているが組成に顕著な違いがある。小丘は排水が良く乾燥することもあるので木本植物も多い。一方、小凹地は平坦で小丘に比べ著しく湿潤である。

(e)高層湿原池沼複合体

高層湿原の中で多数の小池沼を成立させる部分だが、雄国沼湿原の高層湿原には余り発達していない。

(f)キタヨシ湿原(低層湿原)

雄国沼の満水時には浅く水に覆われる部分に発達した湿原で、水位の低下時に陸地となる場所にはヤチスゲ群落が発達する。

6月にはレンゲツツジやミズギボウシの花が群生し、7月には中間湿原を特徴つけるニッコウキスゲの大群落が広がる。また、秋に付近の山を彩る紅葉や湿原の草紅葉もみごとである。雄国山に続く芝草原の頂上からは豊かな会津盆地とその先にそびえる飯豊連峰の山々を堪能できる。

猫石から雄国沼と飯豊連峰を望む